救急医学ポイント
§1 BLS
☆BLSとは
・BLS=basic life support
・心停止で倒れた人に対してバイスタンダー(その場に居あわせた人)が行う、心肺蘇生、AEDによる徐細動、気道異物除去のこと。
☆BLSの流れ
意識の確認(よびかけ、ゆさぶり)
↓
119番通報、人を呼ぶ
↓
呼吸停止の確認(患者の口に頬や耳を近づけて息がない)
↓
下顎挙上で気道確保(舌根沈下による窒息を防ぐ)
↓
人工呼吸2回と胸骨圧迫30回を5サイクル
(AEDの準備ができるまで)
↓
VfならAEDが自動的に除細動
☆救命の連鎖
・脳虚血から5分を過ぎると、不可逆的な脳障害を起こす。
・救急車かけつけるのは通報から平均7分
→救急救命士が心肺蘇生を行うまでの間はBLSが命綱になる
・迅速な通報、迅速な心肺蘇生、迅速な徐細動、二次救命処置の流れを救急の連鎖といい、これがスムーズに行くと蘇生率が上がる。
・心肺停止患者の復帰率
欧米は20%、日本は2%
☆ドリンカーの生存曲線
心肺停止から心肺蘇生までの時間が1分遅れると、蘇生率が10%下がる。
☆呼吸停止の判断
・顔を患者の口に近づけて、頬で息を感じ、耳で息の音を聞く
・胸の上下があるか
・心停止ではあえぎ呼吸(死戦期呼吸)が見られるが、呼吸ありと間違えないこと。
・小児の呼吸数10回/分未満は呼吸停止とみなす。
☆心停止の判断
・総頚動脈が触知困難であれば60mmHg以下、脳虚血
とう骨動脈(-)→80mmHg以下
大腿動脈(-)→70mmHg以下
・一般人は意識なし、呼吸なしで心肺蘇生を開始してよい
☆人工呼吸の方法
・1回1秒間息を吹き込む×2
・胸郭が軽く膨らむくらい
・脈があるときは人工呼吸のみでよい
成人10回/分、小児20回/分の人工呼吸、2分ごとに脈を確認
☆胸骨圧迫の方法
・両乳頭の真ん中を圧迫(乳児以下は少し足より)
・成人は胸が約5cm沈むくらい、小児以下は胸の3分の1が沈むくらい
・成人は両腕で、小児は片腕、乳児以下は指2本
・たやさず、手をはなさず、力いっぱい、速く(100回/分)
☆気道異物除去の方法
・気道異物の判断はチョークサイン
・ハイムリック法(後ろにまわって横隔膜のところで両腕を組み、上に持ち上げる)
・乳幼児はお腹を手のひらに乗せて背中を叩く(背部叩打法)
☆AEDの方法
・電源オン→電極パッドをはる→いったん離れて解析ボタン→Vfなら自動音声→ショックボタンを押す
・AEDは1回が原則
・AEDの後、すぐに胸骨圧迫を開始。意識の確認は必要なし。
・新生児、乳児にはしない。
・濡れていればふく
・胸毛が多ければ剃る
・目の前で心停止になったときはまずAED→Shock First
(心停止から5分過ぎているとき、目撃者がないときは心肺蘇生から→CPR First)
§2 ALS
☆ALSとは
・advanced life support
・医療機関で行う救命処置
・心肺蘇生(CPR)、電気的除細動、確実な気道確保、静脈路確保と薬剤投与、心停止の原因検索(4H&4T)
☆ICLSとは
・immediate cardiac life support
・突然の心停止に対して最初の10分にチームで行う心肺蘇生法を学ぶトレーニングコースのこと
☆心停止
・心停止には心静止(asystole)、無脈性電気活動(PEA)、心室細動(Vf)、無脈性心室頻拍(pulselessVT)の4種類がある。
・心静止(asystole)では技術的なミスがないか確認すること。
例:誘導のリードが外れていないか、誘導の位置、電源が入っているか
☆気道確保の種類
・下顎挙上
・バッグバルブマスク:口にマスクをする
・ラリンゲアルマスク:喉頭にマスクをする
・気管挿管:気管支内にマスクをする
・輪状甲状靭帯切開術、輪状甲状靭帯穿刺
☆気管挿管の確認方法
・空気を送り込んで心窩部でボコボコ音を聴診する
・空気を送り胸郭が挙上するか
・チューブ内の曇り
・酸素投与によるSpO2
・呼気CO2モニター(カプノメーター)
・食道挿管検知器
☆電気的除細動の方法
・200J→300J→360J
・右鎖骨直下と左乳頭部外側にパッド
☆心肺蘇生の薬
・エピネフリン
α作用:大動脈収縮→冠動脈圧↑
β作用:心収縮力↑、刺激伝達系の自動能↑
1mgを3分ごと、0.2mg/kgまで
・バソプレッシン
血管平滑筋のV1レセプターを介して強い昇圧作用
40単位を1回
☆難治性Vf,難治性pulselessVTへの薬
・電気的除細動が効かないときに使う
・アミオダロン
3群抗不整脈薬
すべてのイオンチャネル、α、β遮断
初回300mg、追加150mg
・リドカイン
1b群抗不整脈薬
Naチャネル阻害→心室性不整脈に使う
1mg/kgを3分ごと、3mg/kgまで
・ニフェカラント
3群抗不整脈薬
K電流の抑制→不応期延長
0.3mg/kgを5分かけて
☆心静止、無脈性電気活動への薬
・アトロピン
副交感神経遮断
エピネフリンの後に投与
1mgを3分ごと、3回まで
☆炭酸水素ナトリウム(メイロン)の使い方
・慢性腎不全、三環系抗うつ薬、アスピリン中毒などでpH7.2以下のひどいアシドーシスのとき
・平衡移動で二酸化炭素が発生するので、呼吸性アシドーシスには使わない。
☆心停止の原因
・4H=hypovolmia,hypoxia,hypothermia,hyper/hypoK
・4T=toxin,tamponade,tension pneumothorax,thrombosis(肺,冠)
☆ALSの流れ
・Vf,pulselessVTのとき
CPR、酸素投与
↓
心電図装着
↓
Vf,pulselessVTなら電気的除細動
↓
すぐにCPR再開
↓
まだVf,pVT
↓
気管挿管、静脈路確保→エピネフリン
↓
電気的除細動
↓
すぐにCPR再開
↓
リドカイン、ニフェカラント、硫酸Mg
↓
電気的除細動
↓
すぐにCPR再開
・Asystole、PEAのとき
CPR、酸素投与
↓
心電図装着
↓
Asystole、PEAなら気管挿管、静脈路確保→エピネフリン、バソプレッシン、アトロピン
§3 外傷
☆JATEC
・JATEC=Japan Advanced Trauma Evaluation&Care
・初期診療が適切なら助かった例が外傷死の40%近くある
→初期診療の教育が必要で、そのためのガイドラインがJATEC
・致命的になりうる病態を確認しつつ死なせないための蘇生、検査をPrimarySurvey(PS)
・PrimarySurveyで死の危険を回避した後にゆっくりと全身検査、治療を行うのがSecondarySurvey(SS)
☆PrimarySurveyの流れ
・救急隊の連絡がきたらMISTを聞くこと。
M=Mechanism(受傷機転)
I=InjurySite(受傷部位)
S=Sign(バイタルサイン)
T=Treatment(どのような処置をしたか)
・受け入れ準備をする。
人集め、輸液を暖める、薬/モニター/酸素の準備、XpやFASTの準備、感染防御
・ABCDE
☆A=Airway(気道)
・しゃべれればAはOK
・Aの異常があれば、気道確保、100%酸素を10L/分、首の損傷時はカラー固定
・気道確保は下顎挙上、吸引、気管挿管、輪状甲状靭帯切開/穿刺
☆B=Breathing(呼吸)
・Bの異常をきたすものを見逃さない。
・フレイルチェスト
3本以上の肋骨が2か所以上で骨折
奇異呼吸(吸気で胸が陥凹する)
治療は、鎮痛薬、硬膜外麻酔、陽圧人工呼吸による内固定
・緊張性気胸
患側胸郭の著明な膨隆、頚静脈怒張、呼吸音左右差、皮下気腫、鼓音、チアノーゼ、頻脈、血圧低下
症状からすぐに判断する。Xp撮っている間に死ぬ。
治療は、とりあえず胸膜穿刺、落ち着いたら胸腔ドレナージ
・開放性気胸
落ち着いて胸腔ドレナージ。
応急処置はサランラップを使った3辺テーピング
(肺内の空気を出すが入れないようにする)
・大量血胸
胸腔ドレナージ
ドレナージ時に1L以上出血した場合、1時間あたり200mLの出血が2~4時間続く場合は開胸手術
・ドレナージの穿刺部位
気胸→第2肋間鎖骨中線上
胸水→第5、6肋間後腋窩線上
血気胸→第5、6肋間前腋窩線上(常に陰圧で)
穿刺部位は肋骨上縁(肋間動脈損傷を防ぐため)
☆C=Circulation
・90%は出血性ショック、残りは閉塞性ショック(緊張性気胸、心タンポナーデ)
・初期輸液
静脈路を2本確保(上腕正中肘静脈2か所)して、リンゲル液を2L/20分→TR,NRなら輸血
・初期輸液の結果
Responder:輸液後に血圧が90以上。SSで原因検索。
TR(TransientResponder):一時的に90以上になるが、輸液を中止すると90以下になる。
NR(Nonresponder):輸液してに血圧上がらず→すぐに気管挿管
・輸血
Hbが7以下、Htが30%以下なら加温濃厚赤血球(RC-MAP)を投与。クロスマッチする暇がないときはO型赤血球を輸血
・出血源を探す
胸、骨盤はXp、腹はFAST
・FAST=fast assesment with sonography for trauma
心窩部:心タンポナーデを見る
左右の胸腔:血胸を見る
左右の季肋部:腹腔内出血を見る。右はモリソン窩、左は脾腎間
ダグラス窩:骨盤内出血を見る。
・心タンポナーデ
診断:Beckの3徴候(血圧低下、静脈圧上昇、心音減弱)、頚静脈怒張、奇脈(吸気時に収縮期血圧が10mmHg以上下がる)、FASTで心臓周囲のecho free space、Xpで心臓陰影拡大
治療:心嚢穿刺(左45度、上45度の方向で剣状突起下穿刺)
☆D=disfunction of CNS
・まずPSで呼吸循環を安定させてからSSで神経系の治療に入る。
・「切迫するD」のときはSSでまず頭部CTを行う。
・切迫するD
GCSが8以下
急激にGCSが2以上低下
瞳孔不同
クッシング現象
・GCM
E:4自発 3呼びかけ 2痛み 1なし
V:5OK 4混乱文 3混乱発声 2音声 1なし
M:6命令従う 5痛み部位 4痛み逃避 3除皮質硬直 2除脳硬直 1なし
§4 熱傷
☆直後の応急処置
・冷却30分以上
(代謝抑制、浮腫や疼痛の軽減、熱傷深度の進行抑制)
☆熱傷深度分類
・1度(EB=epidermal burn)→表皮までの熱傷
2度(SDB=superficial dermal burn)→真皮の上層まで
2度(DDB=deep dermal burn)→真皮の下層まで
3度(DB=deep burn)→皮下組織まで
・1度:発赤、疼痛あり
2度SDB:水泡底の真皮が発赤、疼痛あり
2度DDB:水泡底の真皮が白色、疼痛なし
3度:蒼白、羊皮紙様、または炭化、無痛
☆熱傷面積
・手=1%
・成人は9の法則、小児は5の法則
・9の法則:頭=9、腕=9、胴体=9×2、足=9×2
・5の法則:頭=20、腕=10、胴体=10×2、足=10
☆重傷度
・%BSA=2度+3度→輸液量
・BurnIndex=(1/2)×2度+3度→植皮術面積
・Artz基準の重症:2度>30%、3度>10%、顔面熱傷(気道熱傷)、手足熱傷、骨折合併
☆病態変化
・ショック期(2日まで)
血管透過性亢進→循環血漿量減少性ショック(8時間ピーク)
(ヒスタミン、フリーラジカル、キサンチンオキシダーゼ)
・利尿期(2~5日)
血漿成分が血管内へ戻る→心不全、肺水腫
・感染期(5日~)
敗血症
☆治療
・顔面熱傷では気道熱傷があるので気管挿管
↓
・成人20%以上、小児10%以上、顔面熱傷(気道熱傷)では、静脈路2本確保、尿道バルーンカテーテル、麻痺性イレウスに備えて胃チューブ
↓
・破傷風対策、しかし初期では抗菌薬不要、抗潰瘍薬(Curling潰瘍)
↓
・細胞外液補充液輸液(乳酸リンゲル)
侵襲により高血糖なのでブドウ糖は不要
輸液量はBaxterの式で計算する
24時間の輸液量=4×%BSA×体重kg
(半分を8時間で投与する)
・コロイド輸液(アルブミン製剤)
血管透過性がピークになる8時間以降
血清蛋白<4、血清アルブミン<2で適応
(やがて来る心不全、肺水腫を予防するため)
・栄養管理(Curreriの式)
成人:25×体重+40×%BSA
小児:60×体重+35×%BSA
↓
局所管理
・水泡はつぶさない。
中に創傷治癒を促進するサイトカインが多い。創傷被膜になり疼痛を減らすから。ただし、感染があれば除去する。
・軟膏
SDBまで:ステロイド軟膏、アズノール軟膏、抗生剤軟膏、ワセリン
3度:ゲーベンクリーム
ゲーベンクリームは細胞障害を起こすことがあり、白血球減少により創傷治癒を遅らせることがある。
・3度
デブリードマン:壊死組織をスライス状に切除、感染創が成立する48時間以内に
植皮:
自家移植が基本
同種移植は一時的だが、表皮カバーにより救命率を上げる
全層移植:顔、関節、中心静脈(シート状植皮)
分層植皮:広い範囲を覆うためにパッチグラフト、メッシュグラフトにする。
減張切開:
コンパートメント症候群に行う。
(コンパートメント症候群:NSAIDs無効の激痛。しかし、足背動脈は触れる→TAO,ASOとの鑑別)
§5 急性中毒
☆死亡率
・自殺 年間30000人
交通事故 年間10000人
急性中毒 年間 5000人
・急性中毒の80%は農薬とガスによる。
・全体として急性中毒で死ぬ率は200人に1人(199人は死なない)
☆急性中毒は疑いを持つことが第一
・原因不明の意識障害
激しい嘔吐、下痢
説明不能の臨床症状
精神科疾患
集団発生
・いつ、どこで、どれくらい、どこから摂取したか
☆血中濃度
・血中濃度の変化は、αカーブ(血管かた組織への移行)→βカーブ(組織内での代謝と排泄)
・分布容量(Vd)
Vd=2なら全体の1/2が血中にある
Vdが大きいほど全身への広がりが大きい
・血液浄化の効果
分布容量が大きいほど、蛋白結合率が高いほど、脂溶性が高いほど、血液浄化の効果が小さい。
→フェノチアジン系、バルビツレート系、ベンゾジアゼピン系、三環系抗うつ薬には血液浄化は無効。
cf)
フェノチアジン系(抗D2):クロルプロマジン、フルフェナジン→活性炭
ブチロフェノン系(抗D2):ハロペリドール、ドロペリドール
バルビツレート系(GABA刺激):フェノバルビタール→活性炭
ベンゾジアゼピン系(GABA刺激):ジアゼパム、クロナゼパム→フルマゼニル
☆胃洗浄
・臨床機転を変えるというエビデンスはない。
・原則服用1時間以内
(炭酸リチウムでは10時間でも胃洗浄)
・石油系(ガソリン、灯油)、強酸、強アルカリでは逆流時に障害を起こすので禁忌
・意識障害時には気管挿管下で行う。
・左側臥位、低頭位、1回200mLを10回以上行う
☆活性炭
・有効性が証明された。
・強酸、強アルカリ、エタノール、ヒ素、フッ化物、臭化物は吸着しない。
・温水300mLに100gを溶かして投与。その後は6時間ごとに半分ずつ投与する。
・アスピリン、アセトアミノフェン、バルビツレート系、フェニトイン、石油系。
☆腸洗浄
・パラコートによく使う。
・右側臥位で、胃管挿入して行う。
☆強制利尿
・尿細管での再吸収を減らす
・乳酸リンゲル+1/2生食を2L/時間
・バルビツレート系、サリチル酸のみに有効
☆血液透析
・メタノール、エタノール、イソプロパノロール、エチレングリコール、炭酸リチウムに有効
☆血液吸着
・テオフィリンに有効
☆中毒物質と拮抗薬
・CO→酸素
・青酸化合物→亜硝酸薬、チオ硫酸
・有機リン→PAM、アトロピン
・サリン→アトロピン
・麻薬→ナロキサン
・アセトアミノフェン→Nアセチルシステイン
・ヨード→バレイショデンプン、チオ硫酸ナトリウム
・メトヘモグロビン血症(アニリン)→メチレンブルー
・ベンゾジアゼピン系→フルマゼニル
・ジゴキシン、ジギトキシン→ジゴキシン特異抗体、フェニトイン
・クマリン→ビタミンK
・メタノール→エタノール
・ヒ素、水銀→ジメルカプロール
・鉛→エデト酸ナトリウム
・銅→ペニシラミン
・鉄→デスフェラール
・アスピリン、三環系抗うつ薬→メイロン(炭酸水素ナトリウム)
☆一酸化炭素中毒
・COのHb親和性は酸素の250倍
→O2が100mmHg、COが0.4mmHgでもCO-Hbは50%
・CO-Hbが50%以上になると低酸素血症により意識障害
・パルスオキシメーターはHbO2とHbCOを区別できないのでCO中毒
を検出できない。
パルスオキシメーターが役に立たない時→血圧低下、重篤な不整脈、マニキュア、CO中毒
・治療は酸素を10L/分(COを追い出す)
・チアノーゼはない。
チアノーゼは酸素と結合していないHb(還元型Hb)が多いときに見られるから。
・逆に皮膚が紅潮する。
(赤く見えるため一酸化炭素マグロなるものがあるらしい)
☆タバコ
・小児では1本、成人では3本が致死量。
・しかし実際には催吐作用により吐き出すので重篤にはならない(吐いてないときはそれほど食べていない)。
☆有機リン(殺虫剤)中毒
・マラチオン、フェニトロチオン
・AchEを阻害する
→ニコチン作用阻害:筋攣縮、筋力低下(呼吸筋麻痺)
ムスカリン作用阻害:副交感神経系亢進(縮瞳、発汗)
中枢作用:錯乱、意識障害
・甘酸っぱい、頭が痛くなるような匂い、白い吐物
・pin point pupilを見たら、橋出血、有機リン、麻薬
・治療
PAM(プラリドキシム)→有機リンを直接阻害
アトロピン→Ach受容体を阻害
・PAMが効くのは服用24時間以内(有機リンのPAM結合部位が時間とともに変化していくから→agingという)
☆パラコート(除草剤)中毒
・青緑色、コバルトブルーの吐物、手や服に緑色の付着物。
・NADPHにより還元されてパラコートラジカルになり、それが酸素をスーパーオキサイドにして、細胞障害。
・大量摂取時の経過
1日目 悪心嘔吐があるが一見元気
2日目 肝不全、腎不全
3日目 ARDS~呼吸不全~死亡
・できるだけ早い胃洗浄、腸洗浄
・イオン交換樹脂によく吸着されるので併用する。
・念のための酸素投与は禁忌。肺線維症への進行を速めるから。ただし低酸素血症なら躊躇しないこと。
・肝不全や腎不全を乗り越えても、肺線維症が進行し数カ月後に死亡する例をいかに救命するかが大切。
☆塩素ガス中毒
・酸性洗浄剤+塩素系漂白剤で生じる。
☆硫化水素ガス
・酸性洗浄剤+硫黄含有入浴剤で生じる。
§6 ショック
☆ショックとは
・急性、全身性の循環不全による細胞臓器障害
☆ショックの分類
・循環血漿減少性ショック(出血性、体液喪失性)
・心原性ショック
・心外閉塞性ショック
・血液分布異常性ショック(感染性、アナフィラキシー、神経原性)
☆循環血漿減少性ショックの病態
・血液量低下→前負荷低下→心拍出量低下→交感神経亢進→頻脈、血管抵抗上昇
・血管抵抗上昇は皮膚、筋、腎臓で著明
→血流を脳、心臓、肺へ再分布する
・症状は、血圧低下、脈圧低下、心拍数上昇、末梢静脈虚脱、爪床refillimg遅延(2秒以上)、頚静脈怒張、肝うっ血、皮膚の蒼白、冷感など
・出血性ショック:外傷、大動脈破裂、消化管出血、産科出血、手術後の出血
・体液喪失性ショック:広範囲熱傷、汎発性腹膜炎、腸閉塞、重症下痢、熱中症
☆心原性ショックの病態
・心臓ポンプ機能の低下→前負荷上昇(CVP上昇、PAWP上昇)
・原因:心筋梗塞、DCM、MR、AS、心室瘤、ASD、不整脈
☆心外閉塞性ショック
・心タンポナーデ、収縮性心膜炎、重症肺塞栓症、緊張性気胸
・緊張性気胸では胸腔内圧上昇による静脈還流低下→心拍出量低下
☆感染性ショックの病態
・原因:敗血症、脳炎、髄膜炎、肺炎、血管内カテーテルなど
・TNF、IL-1、PGE2、プロスタサイクリン、NOなどが上昇し、血管が拡張
・初期は心拍出量を増加させて血管拡張に対応するので皮膚温が高く、紅潮するwarm shockとなる。
・発熱とともに血圧が低下してくる。
☆SIRS
・感染などの侵襲→サイトカイン分泌→発熱、頻脈、白血球増多、呼吸数増多
・感染によるSIRSを敗血症という。敗血症による循環不全が感染性ショック。
・診断基準:
1.体温 36度以下または38度異常
2.心拍数 90以上
3.呼吸数 20以上またはPaCO2が32mmHg以下
4.白血球 4000以下または12000以上
のうち2項目以上を満たす場合
☆アナフィラキシーショックの病態
・特異的IgEが肥満細胞、好塩基球に結合→ヒスタミン、ロイコトリエン放出→血管透過性亢進→気道浮腫、血圧低下→吸気性呼吸困難、循環不全(1型アレルギー)
・薬剤投与後、速く発症するほど重症化しやすい。
・治療は0.1%エピネフリン(ボスミン)
☆神経原性ショックの病態
・脊損かVVRが原因
・血圧が低下するが交感神経が機能せず徐脈
・徐脈なショックは神経原性ショックと完全AVブロック(右室梗塞)によるショック
・感染性ショックと神経原性ショックはノルアドレナリンを積極的に使う(∵血管拡張による血流分布異常がある)
☆ショックの応急処置
・気道確保
・10L/分の酸素投与
・静脈路確保(末梢で2本)
・pH7.15以下以下の時はアシドーシスの補正にメイロン(炭酸水素ナトリウム)
§7 救急の特徴と災害救急
☆救急の特徴
・診断と治療を同時に行わなければならない。
・十分な診断をする前に、とりあえず蘇生する場合がある。
☆救急の歴史
1947 マッカーサーの命令で消防が警察から独立
1963 救急搬送が消防業務になる(交通戦争による外傷者中心)
1964 「救急告示病院制度」
1967 大阪大学に特殊救急部が開設(高次医療の草分け)
1976 「当面とるべき救急医療対策について」
初期救急医療 開業医が輪番で担当
2次救急医療 総合病院が輪番で担当
3次救急医療 救命救急センター設置
1987 高齢化により外傷者<病人→病人搬送が消防業務になる
1991 欧米に比べCPA生存率が低い→救急救命士制度
医師の指示のもとに、
1.AED、
2.ラリンゲアルマスクによる気道確保
3.静脈路確保と乳酸リンゲル投与
1998 救急告示病院が初期、2次、3次救急に統合
以降、救急救命士のできることが広がる
2003 医師の指示がなくても除細動ができる
2004 気管挿管
2006 エピネフリン投与
☆災害医療=3T
・triage,treatment,transport
☆災害医療の特徴
・限られた資源(医者、看護師、薬)を有効活用するために、死にそうになっている人で助けられる人をトリアージ(選別)する必要がある。
・高度医療が必要な人をトリアージし搬送する。
(適切な患者を、適切な時期に、適切な手段で、適切な医療機関に移動させる)
・求められる医療が時間とともに変化する。
救出、救助→救急医療→慢性疾患、精神サポート
☆災害医療体制
問題点
・被害状況の情報収集が困難
・ライフラインの低下により診療機能が低下
・初動期に、被災地外からの医療支援が遅れる
・防災訓練が不十分
・メンタルヘルス対策が不十分
対策
・応援協定の締結(他府県からの協力)
・広域搬送システムと緊急消防援助隊の導入
・災害拠点病院
要件:重症患者の救命、医療チームの派遣、機材の提供、ヘリポートと搭乗医師、24時間体制
(救命救急センターでなくてもよい)
・DMATの設置
急性期に活動できる機動性を持ったトレーニングを受けた医療チーム
任務
1情報収集
2トリアージ、治療、搬送
3医療機関(特に災害拠点病院)での支援
4広域搬送拠点での支援
・トリアージ
黒:死亡、救命不可能
青:自立歩行可能
黄:赤青でないもの
赤:呼吸数30回/分以上、CRT(爪床還流)2秒以上、指示に従えない
・トリアージはくりかえし行う。
§8 熱中症と低体温
☆熱中症の分類
・日射病、熱けいれん、熱疲労、熱射病
☆日射病(最も軽症)
・直射日光→皮膚血管拡張、筋血流増加→循環血漿量低下
・38度以下の場合に使う。
☆熱けいれん
・激しい運動→発汗過多→水だけを補充→Na濃度低下→強直性痙攣(痛い)
・筋痙攣が激しい時はミオグロビン尿(Mb尿)を伴う。
・治療は生理食塩水2本の補給、Mb尿時は急性腎不全対策
☆熱疲労
・熱射病の前段階。臓器障害には至っていない。体温は39度~40度、皮膚は蒼白だが発汗はある。
・水だけが失われる高張性脱水(小児や高齢者)や水の補給だけを行った場合には低張性脱水になる。
☆熱射病
・体温の上昇で視床下部の体温中枢が障害→41度以上でミトコンドリア障害→42度以上で細胞内のタンパク変性→細胞障害→多臓器不全
・著しい脱水と発汗停止、脳圧亢進による意識障害、循環不全による腎不全、肝不全、ST上昇とT波陰性化、肺鬱血によるPaCO2上昇
・深部体温は直腸温、膀胱温、食道温、鼓膜温の2つ以上で測定する。
・治療は、冷却(頚部、鼠径部、腋窩)、冷却輸液、冷水胃洗浄、冷却体外循環。ただし、冷却は38度になったら止めること。
・解熱薬は無効。
☆偶発性低体温
・深部体温が35度以下
・低血圧なのに徐脈(→低体温、VVR、神経原性ショック、下壁梗塞)
・軽度(32-35度):交感神経亢進(→血圧↑、頻脈、高血糖)
中度(28-32度):心筋抑制、血管透過性↑、ADH分泌低下(→心拍出力↓、徐脈、血圧↓、代謝性アシドーシス)
重度(28度未満):意識障害、心室細動
☆偶発性低体温の治療
・酸素投与、輸液、循環管理(心マ、除細動、ドパミン、ドブタミン)
・高度低体温にはPCPSを考慮。リドカイン、アトロピンなど薬剤効果は少ない。
・復温
34度以上→Passive external Rewarming=室温、毛布
30度以上→Active external Rewarming=体幹中心の電気毛布、ストーブ
30度以下→Active internal Rewarming=加温輸液、加温加湿酸素、加温PCPS、温水膀胱洗浄、胃胸腔への温水注入
・Rewarmingショック
external rewarmingによって皮膚血管が拡張
→心臓の復温が遅れて心拍出量が上がらず、末梢需要に追いつかない、冷却血液が心臓へ還流
→血圧低下(ショック)、心室細動
∴internal rewarmingとともに輸液を忘れないこと。
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