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2012年2月17日金曜日

脳神経外科学ポイント

脳神経外科学ポイント

<意識障害>
■意識清明とは1.意識内容が正常で、2.刺激に対する反応があり、3.覚醒している状態である。
これらの3つの要素のうち、生命に関わるのは覚醒の度合いである。
意識に関係するのは上行性網様体賦活系ascending reticular activating systemと視床下部調節系hypothalamic controlling systemで、上行性網様体賦活系は延髄、橋、中脳、視床下部、視床にまたがる網様体で、大脳半球の新皮質に広く投射し調節している。視床下部調節系は大脳半球の辺縁皮質に投射して調節している。
■JCS(Japan Coma Scale)
意識清明は0点で、最も意識レベルが悪いと300点となる。
 覚醒している               刺激すると覚醒する       刺激しても覚醒しない    
1大体意識清明だが今ひとつはっきりしない 10普通の呼びかけで開眼する   100痛み刺激をはらいのける
2見当識障害がある            20大きな声やゆさぶりで開眼する 200痛み刺激に手足を動かしたり、顔をしかめる
3名前、生年月日が言えない         30痛み刺激で開眼する      300痛み刺激に反応しない
■GCS(Glasgow Coma Scale)
意識清明は15点で、最も意識レベルが悪いと3点となる。E,V,Mの各領域の点数を加えたもので判定する。
 E(eye opening)     V(best verbal response)      M(best motor response)    
4spontaneous      5orientated           6obeys commands
3to speech       4confused conversation      5localize
2to pain        3inappropriate words       4withdraws
1none          2incomprehensible sounds     3abnormal flexion
            1none              2extends
                             1none
■特殊な意識障害
特殊とは疾患の急性期を脱してさしせまった生命の危機はないが、意識が回復しない、または意識がないように見える状態である。
1)無動性無言akinetic mutism
病名通り動かず、話さずの状態だが、時には目が開いて意識がはっきりしているようにも見えるが、非常に強い刺激以外はほとんど反応しない。覚醒・睡眠サイクルは見られる。末梢の感覚神経、運動神経の異常はない。
2)失外套症候群apallic syndrome
大脳半球pallicの全体的破壊が原因である。本症は器質的障害部位により命名されており、無動性無言と症状は同じ。
3)植物症患者vegitative patients
自律神経系は正常で覚醒・睡眠サイクルが見られる。だが、これ以外の運動神経、感覚神経、大脳の精神活動は機能していない。
本症と無動性無言、失外套症候群は症状からはほとんど区別できないが、本症は症状が進行していなく、無動性無言、失外套症候群は症状が進行中に見られる意識障害の時に使われる。
4)閉じ込め症候群locked-in syndrome
意識障害はないが、意思疎通の手段がほとんどなく、意識がないように見るだけである。脳底動脈閉塞による橋梗塞例に多い。四肢麻痺、無言をきたし、意思表示の手段は目の開閉、眼球の上下運動のみである。
5)通過症候群transit syndrome
大脳の器質的損傷をうけた意識障害患者が意識清明になる途中で自発性喪失、感情不安定、健忘などの症状を示す。
■脳死判定
<前提条件>
1.器質的脳損傷によってJCSで300点、GCSで3点であること。
2.原疾患の診断が確実で、どんなに治療しても回復しないこと。
<除外例>
1.6才未満の場合。(改訂によりなくなった)
2.薬物中毒、低体温、代謝内分泌疾患などによって脳死と間違われやすい状態にあるとき。
<判定基準>
1.JCS300点、GCS3点の深昏睡である。
2.人工呼吸器をはずすと自分で呼吸ができない自発呼吸喪失の状態。
3.瞳孔が左右とも4mm以上。
4.対光反射、角膜反射、毛様脊髄反射、眼球頭反射、前庭反射、咽頭反射、咳反射の脳幹反射の消失。
5.最低4導出で30分間の脳波平坦。
6.以上の5項目が満たされた後、6時間たっても変化がない。

<脳血管障害>
Ⅰ.脳動脈瘤cerebral aneurysm
■破裂する脳動脈瘤は、ほとんどが先天性で嚢状をしている。その他の原因は動脈硬化、細菌、梅毒で、紡錘状に拡大しているが、これは滅多に破裂しない。いずれの型も動脈瘤の壁は中膜が欠損している。
嚢状のものは頚部neckと体部fundusに分かれ、体部には一部飛び出た鶏冠blebが見られ、多くはこの部分が破裂する。好発部位はWillis動脈輪のIC-PC分岐部、ACom、MCA最初の分岐部である。
■症状
急性期は破裂によって起きたクモ膜下出血によって髄膜刺激症状、つまり、頭痛、嘔吐、項部硬直をきたす。項部硬直は出血後24時間たって見られることが多い。
症状は出血の程度(漏出から周囲脳を圧排する程の大量出血まで)によって異なり、重症例ではすぐに意識障害をきたして死亡したり、頭蓋内圧の上昇によって網膜静脈が圧迫されて硝子体下出血が見られるものもある。また重症例で早期に重篤な意識障害をきたすと、最後まで項部硬直が見られないこともある。
脳動脈瘤の位置によっては脳内出血を起こし、神経脱落症状を示すものある。
IC-PC分岐部の動脈瘤では、動眼神経の周辺部を走る副交感神経、上眼瞼挙筋支配神経が圧迫され、散瞳、眼瞼下垂きたすこともある。
亜急性期には破裂部位の近位や遠位の血管が一過性に血管れん縮vasospasmをきたすことがある。
vasospasmには破裂直後に起こり、すぐに寛解するearly vasospasmと、急性期を過ぎて症状が安定したときに起こるdelayed vasospasmがある。delayed vasospasmはSAH後、2週間以内に起き、2週間続く。
これにより脳虚血が広範に起こり、意識障害、片麻痺等の神経学的症状を示したものをsymptomatic vasospasmという。
■検査
腰椎穿刺では出血後3週間で赤血球の破壊産物であるキサントクロミーの黄色が消えて水様透明になる。
CTでは出血の量によって脳槽の全体または一部が高吸収域として、白く写る。
確定診断は脳血管撮影によって行い、一側の内頚動脈撮影で動脈瘤が見つかっても、それが破裂したという確信がない限りは4-vessel studyを行うべきである。
■治療方針
初回破裂での死亡率は15%である。
破裂後の再出血は出血後1日後がピークで2週間以内に50%におこり、再出血での死亡率は50%である。さらに破裂動脈瘤を放置した場合、1ヶ月で50%が死ぬ。また年間の破裂率は3%である。
Hunt&Hessの重症度分類のGrade1,2では早期手術が有効だが、Grade3,4では早期手術よりも意図的晩期手術の方が明らかに成績がよかった。
早期手術の利点はvasospasmの最大の要因であるクモ膜下血腫を除去できることで、欠点は出血によって腫脹した脳には侵襲が大きく、またクモ膜下血腫を除去してもvasospasmを完全には防げないことである。
意図的晩期手術の利点は症状が安定するのを待って行うために術後の脳浮腫、vasospasmの危険性が少なく、侵襲も少なくて済む。しかし、待機している間に再出血、vasospasmで死亡することがある点である。
再出血を防ぐために抗線維素融解酵素を用いても、今度はvasospasmが起きやすくなってしまうというジレンマがある。
■治療
直視下に動脈瘤頚部クリッピングneck clippingを行うが、動脈瘤全体を露出できなかったり、動脈硬化があってクリッピングするとparent arteryが狭窄してしまう場合は合成樹脂接着剤、筋肉片で動脈瘤全体をコーティングする。
最近はSeldinger法にて大腿動脈経由でX腺透視下にカテーテルを動脈瘤部位まで進めて、金属コイル等で塞栓する血管内手術が行われることもある。

Ⅱ.脳動静脈奇形arteriovenous malformation(AVM)
胎生期3週の毛細血管形成期の異常で、動脈が毛細血管を経ずに直接静脈に注ぐ。動静脈の吻合部は肉眼でミミズが塊となって群がったように見え、nidusという。また流入動脈をfeeder、導出静脈はdrainerという。
導出静脈には動脈血が流れるので拍動がありred veinともいう。
AVMの周辺には陳旧性出血巣も見られ、過去にsilent captureがあったことを示唆している。
AVMは脳表に存在することが多いが、一部は脳内部に埋没している。血管抵抗の高い毛細血管を欠くため、導出静脈に大きな圧がかかるので、AVMは腫瘍のように徐々に大きくなっていく。
さらに毛細血管がないために効率が悪く、盗血現象steel phenomenoneによってAVM周辺脳には萎縮が見られる。
好発部位は80%以上がテント上に発生し、発症年齢は30才代にピークがある。
■症状
症状は1出血で発症するのが60%で、2けいれん発作や神経脱落症状で発症するのが40%である。
1.限局性のSAHによって髄膜刺激症状をきたすが、脳動脈瘤破裂と違ってvasospasmは起きない。
AVMの一部は脳内に埋没していることが多いので脳内出血をきたすこともある。一般に小さいAVMの方が破裂しやすい。
2.けいれん発作はJackson型や局所型となることが多く、若年者で抗てんかん薬が効かない場合は本症を考える。
精神症状、早発痴呆、TIA、頭痛、片麻痺などの神経脱落症状で発症することもある。
中脳水道にできたAVMでは脳脊髄液の循環障害で閉塞性水頭症きたすこともある。
■重症度分類
Spetzler分類
大きさ 
<3cm  1点  
3-6cm 2点
6cm   3点
周辺脳の機能的重要性
non-eloquent 0点
eloquent   1点
導出静脈の場所
superficial 0点
deep        1点
■検査
脳血管撮影を行うと、feeder,nidus,drainerの全てがそろったAVMばかりとは限らず、feederのみやdrainerだけの像が見られることもあり、これをangiographycally occult AVMまたはcryptic AVM(潜在性AVM)という。
破裂したAVMでも脳動脈瘤と異なり大量のクモ膜下出血像になることはまれである。
AVMは腫瘍のように徐々に大きくなっていくが、腫瘍のような周辺への圧排像は見られない。
■治療
Gradeが低くく、摘出しても神経脱落症状きたさない場合は、出血の有無に関わらず開頭nidus塞栓術を行う。
Gradeが高く、深部にあって摘出が難しい場合などはγ-knife、開頭下にfeeder clipping、血管内手術によるnidus塞栓術等を行う。γ-knifeの適応はnidusが3cmまでの症例となっている。

Ⅲ.高血圧性脳出血hypertensive intracerebral hemorrhage
■脳出血の原因疾患は高血圧の他、脳動脈瘤、脳動静脈奇形、もやもや病、脳腫瘍、出血性素因、頭部外傷や原因の不明な特発性脳出血がある。
■原因は長期間の高血圧によって脳深部を潅流する穿通枝が類線維素変性fibrinoid degenerationをきたし、続いて血管壊死が起こり、これに基づいてできた微小動脈瘤が破裂して出血する。
出血はMCAのM1部から分枝するレンズ核線条体動脈が潅流する被核が50%、PCAから分枝する視床膝状動脈が潅流する視床が30%、皮質下が10%、橋、小脳等である。
■検査
・plainCT(単純CT)では直後は高吸収域high、2週たつと周囲から等吸収域isoになっていき、中心部の高吸収域は小さくなっていく。
3週後には、全て等吸収域になり、脳実質と区別ができない。1ヶ月をこえると低吸収域になっていく。
・enhancedCT(増強CT)では1週から6週の間に血腫周囲の肉芽組織内の血管新生によるring enhancementが見られるが、血腫周囲にグリオーシスができると消失する。
・MRIでは出血直後はT1で等信号、T2で等信号だが、それから1週間以内ではT1で等信号、T2で低信号、1ヶ月たつまでにT1で高信号、T2で高信号に移行していく。1ヶ月以降はT1で低信号、T2で低信号。
■治療
外科治療として開頭血腫除去術、定位的穿頭血腫吸引術が行われる。しかし、橋、視床の出血では原則、行わない。
JCS30点以下やCT分類Ⅲb以下、血腫量が30ml以下の軽症例では定位的穿頭血腫吸引術の方が成績がよい。

Ⅳ.閉塞性脳血管障害
■原因のほとんどは、総頚動脈起始部、分岐部から2cm以内の内頚動脈、眼動脈起始部、起始部から頚椎横突起孔に入るまでの椎骨動脈、脳底動脈、Willis動脈輪、MCA等にできた粥状硬化atherosclerosis(動脈硬化の一つ)による血管狭窄やそこに生じた潰瘍によって血栓が誘発・形成され閉塞する脳血栓症である。
その他の原因はこれらの動脈や心臓内にできた血栓が飛んできて詰まらせる脳塞栓症、高血圧や糖尿病による穿通枝の細動脈硬化(動脈硬化の一つ)、モヤモヤ病、大動脈炎症候群による閉塞である。
■症状の発症様式は3つに分類される。
・切迫卒中とは多くは数分、長くても1日以内に一過性に脳局所脱落症状をきたすものを指す。TIAともいう。
・進行卒中とは突然発症した神経脱落症状が数分から3日の間に進行するものを指す。切迫卒中や完成卒中に落ち着く。
・完成卒中とは突然発症した神経脱落症状が、すでに完成しているものを指す。このうち症状が1日以上3週間以内に消失するものを可逆性虚血性神経脱落RINDという。
■症状
閉塞した動脈が潅流する部位によって異なるが、例えば一側の内頚動脈が閉塞の場合、Wilis動脈輪が正常に機能していれば循環障害はおきないし、さらに末梢の狭窄でも側副血行が発達していれば、神経脱落症状は軽度ないし示さない場合もある。
一側の内頚動脈閉塞に特異的な症状として一過性黒内障がある。これは数分間、片眼が一過性に失明するものである。
■検査
・plainCTでは6時間以内では異常所見は見られない。これを過ぎると梗塞部位は徐々にlowになっていき、3日目にはっきりとlowになり、浮腫による圧迫もはっきりしてくる。1ヶ月たつと浮腫が消えて梗塞巣がはっきりしてくる。1年たつと梗塞巣はグリア組織に置き換えられて永続的な梗塞域となる。脳室は発症前と比べて拡大する。
2週から3週にかけていったん生じたlowが消えて、一見正常化してくることがあり、fogging effectという。
血流再開で出血性梗塞をきたすとlowとhighが混在してくる。
・enhancedCTでは梗塞巣の血管はBBBが破壊され、自動調節能が障害されているので透過性が亢進し造影剤が漏出するため増強されるが、陳旧性梗塞巣は増強されない。
・MRIでは梗塞巣の水分量を反映してT1でlow、T2でhighになる。MRIによって無症候性脳梗塞が見つけられるようになり、このうち、脳深部の穿通枝閉塞が原因の2mmから2cmのものをラクナ梗塞という。3mm以下のものは血管周囲腔の拡大であることもある。
・脳血管撮影は侵襲的な検査で、現在は造影剤を用いない非侵襲のMRAが先に行われることが多い。
・頚動脈硬化と虚血性脳血管障害/冠動脈疾患が相関するので、頚部の超音波検査はスクリーニング検査として有効である。
■治療
内科治療:
血栓症の場合は血栓溶解療法としてウロキナーゼ、tPA、血液希釈療法として低分子デキストラン、抗血小板療法としてトロンボキサン合成阻害薬を、塞栓症の場合は抗凝固療法としてワーファリン、ヘパリンを静脈内全身投与する。
6時間以内の超急性期ではカテーテルによる局所動注投与する場合もある。
血圧は上昇しているが、梗塞巣の拡大、側副血行の減少が起きるのを防ぐ意味で、全身状態が危険な場合以外は降圧しない。
頭蓋内圧亢進に対してはマンニトール、グリセロール、副腎皮質ステロイドを投与する。
外科治療:
・頚動脈内膜切除術は有症状の頭蓋外内頚動脈70%以上の狭窄例に有効である。
・EC-ICバイパス術はTIA,RINDを繰り返す、頭蓋内の内頚動脈やMCA起始部の狭窄例に有効である。
・梗塞周囲の浮腫が頭蓋内圧上昇の原因となり、内科治療が効かず、脳ヘルニアが切迫している例では減圧開頭術を行う。

Ⅴモヤモヤ病moyamoya disease
■原因不明でウィリス動脈輪、内頚動脈の閉塞、狭窄がおこり、二次的に脳底部を中心としたモヤモヤ血管を形成し、側副血行の発達が見られる。10才と30才にピークがあり、その比率は2:3である。
■症状
小児では側副血行の発達不全や機能不全のために脳虚血をきたし、一過性、反復性の運動麻痺では本症を考える。
成人では加齢による側副血管の脆弱化で出血と虚血が半々でおきる。
閉塞例の症状は閉塞性障害と同じく、切迫卒中、進行卒中、完成卒中の発症様式が見られる。
■治療
急性期:脳内出血は出血量が少なく、また出血部位が深部であることが多いので、血腫吸引術は行わないが、脳室内出血は多いので出血量が多い場合や水頭症をきたした場合は脳室ドレナージを行う。
亜急性期、慢性期:
血流改善を目的として、浅側頭動脈-中大脳動脈吻合術、脳表-側頭筋付着術、脳表-浅側頭動脈付着術などのEC-ICバイパス術を行う。
頚部交感神経切断術が行なわれることもあるが少ない。

<脳腫瘍>
腫瘍総論
■好発年齢
           小児              成人(中年)            
  1位 星状細胞腫 astrocytoma     1位 髄膜腫 meningioma
  2位 髄芽腫 medulloblastoma     2位 下垂体腺腫 pituitary adenoma
  3位 頭蓋咽頭腫 craniopharyngioma  3位 髄芽腫 medulloblastoma
  4位 胚芽腫 germinoma          4位 聴神経腫瘍 acoustic neurinoma
  5位 上衣腫 ependymoma        5位 星状細胞腫 astrocytoma
■好発部位
2歳から6歳まではテント下に多いが、この年齢以外(新生児期から2歳までと学童期以降の成人)ではテント上に多い。
小児でトルコ鞍上部の腫瘍は頭蓋咽頭腫、胚芽腫を、成人では下垂体腫瘍をまず考えるが、頭蓋咽頭腫、髄膜腫も考えられる。
小脳腫瘍の場合、小児ではまず小脳半球なら星状細胞腫を、小脳虫部なら髄芽腫を考える。成人では血管芽腫を考え、網膜にも病変がないか検索する。
astrocytomaは小児では小脳、橋に好発し、成人では後頭葉以外の大脳半球に好発する。
胚芽腫以外の胚細胞腫germ cell tumorは松果体に好発する。
■増殖形式
・伸展性増殖は周囲脳を機械的に圧排しながら大きくなる。髄膜腫、下垂体腺腫、聴神経腫瘍に見られる。
・浸潤性増殖は周囲脳に浸潤しながら大きくなる。乏突起膠細胞腫oligodendroglioma、星状細胞腫、胚芽腫に見られる。海綿芽腫、胚芽腫の境界部は浸潤性だが、腫瘍自身の増殖は伸展性である。
・破壊性増殖は浸潤性増殖の一つであるが、周囲脳組織を破壊しながら増殖する。症状の進行も速い。膠芽腫glioblastoma、転移性脳腫瘍に見られる。
■予後に関係する因子
1)増殖のスピード
腫瘍の発生から手術までの期間の短いものは手術による延命期間も短く、発生から手術までの期間が長いものは延命期間も長い。
2)術後に再発するかどうか
一般的に伸展性増殖するものは、肉眼的に全摘できれば、再発しない。だが、浸潤性増殖するものは肉眼的に全摘し、さらに術後の放射線療法、化学療法を行っても再発してくるのが現状である。
3)脳腫瘍の転移
脳腫瘍は普通は転移しない。それは頭蓋内にリンパ系が存在しない、BBBによって腫瘍細胞が血中に入りにくい、脳静脈の構造が特殊なために、腫瘍の増殖によって容易に圧迫、閉塞されてしまう、中枢神経系以外では増殖しにくい上に、腫瘍に対する宿主側の免疫反応により、転移しても増殖できない、等の理由が考えられる。
このように脳腫瘍は一般に、転移しにくいが、くも膜下腔、脳室内に顔を出した腫瘍が髄液腔に広がる、つまり播種されることがある。また髄膜に浸潤し頭皮のリンパ系を介して、患側の頚部リンパ節に転移することもありうる。さらにiatrogenicなケースとして、シャントチューブを介しての転移や、術中に腫瘍細胞で帽状腱膜や皮下組織を誤って汚染し、転移することもありうる。
4)多発性かどうか
一般に多発性脳腫瘍は転移性脳腫瘍、悪性リンパ腫に見られ、高齢者に好発し、予後も厳しい。
少ないが胚芽腫、上衣腫でも多発性に見られることもある。
5)さらに組織学的悪性度、腫瘍の発生部位、患者の年齢、等がある。
■検査
・単純CT(plainCT):
悪性度が低いほど、やや低吸収域lowで、悪性度が高いほど、細胞や間質の密度が高いことを反映して、やや高吸収域highになる。
さらに浸潤性増殖、悪性なら境界が不鮮明である。また、悪性度が高いほど周囲の浮腫も強く、腫瘍周辺は低吸収域となる。腫瘍像の中にはっきりとした高吸収域(high)が見られた場合、腫瘍内出血や石灰化が考えられ、はっきりとした低吸収域(low)では、壊死巣、嚢胞が考えられる。
・増強CT(enhancedCT):
悪性度が高い程、BBBが破壊され、血管内皮細胞の自動調節能が低下しているので増強される。
・MRI:T1で低信号low、T2で高信号highとなる。悪性腫瘍では多彩な組織成分を反映して、信号は不均一となる。
・脳血管撮影:
悪性では新生血管が豊富に分布するbrushing stainが毛細血管相で認められる。浸潤性増殖では主幹脳血管の偏位は著明ではない。
■治療
・外科手術
良性腫瘍で、全摘によって全治が約束される場合は、許容しうる後遺症の範囲内で全摘を目指す。
悪性腫瘍に対する外科手術の目的は
1.症状を改善すること。つまり全摘をめざすよりも、できるかぎりさらなる神経脱落症状が加わらないようにする。
2.腫瘍容量の減少、これは取れば取るほど、後の放射線・化学療法の効果が上がる。
3.病理組織像によって診断を確定し、薬剤感受性を調べ、抗癌剤の選定をし、治療計画を立てること、である。
・放射線治療
放射線に対する感受性は腫瘍の種類によって異なり、膠芽腫、髄芽腫、悪性リンパ腫等の悪性腫瘍に対しては、かなり効果がある。また胚芽腫は浸潤性増殖し悪性だが、極めて感受性が高く、悪性の臨床経過をとらない。
放射線による腫瘍の縮小効果は腫瘍内の栄養血管の閉塞や狭窄によるものと考えられおり、腫瘍に対する直接作用はない。
放射線はG2期、M期にある腫瘍細胞(5%)にしか効果がないので、腫瘍細胞を一斉にG2期、M期に同調させるビンクリスチン、ACNU等を併用する細胞周期同期化学放射線療法を行うこともある。
悪性腫瘍に対しては全量で60Gyを照射するが、正常脳組織は70Gy以上の照射で遅発性放射線壊死をきたすので、全脳照射は行われず、局所照射が行われる。γ-knifeはドーム状に内蔵された201個の60Co微小線源から定位的にガンマ線を数ミリから3cmまでの目標に集束させて鋭く照射する。
全脳腫瘍の5年生存率は70%程である。最も予後が悪い膠芽腫は7%、次が悪性星状細胞腫で20%である。
■症状
脳腫瘍による症状は徐々に発症し、より詳しく分析してみると常に進行性である。
一見、間欠的なてんかん発作であってもよく見ると間欠期が短くなっていたり、抗てんかん薬が効きにくくなる等、進行性である。
ただし、悪性腫瘍や下垂体腺腫では腫瘍内出血をきたし、あたかも脳卒中のように急激に発症することもある。
さらに、症状は器質的・機能的損傷や機能的刺激による巣症状と腫瘍自体の大きさや、周囲の浮腫による頭蓋内圧亢進症状からなる。
悪性の場合はそれほど大きくないのに周囲の浮腫により、頭蓋内圧亢進症状が巣症状よりも先行し、進行は月単位で進む。視力障害がある場合は、うっ血乳頭は軽度である。
良性の場合、かなり大きくなっても症状をしめさないが、腫瘍による圧排に対する周囲脳の適応限界を超えると急に症状を示す事がある。通常、症状の進行は年単位で進む。視力障害がある場合、眼底所見は重篤なうっ血乳頭が見られる事が多い。

神経膠腫
中枢神経系実質である神経上皮細胞(astrocyte、oligodendrocyte、ependymal cell)由来の脳腫瘍が神経膠腫gliomaである。
Ⅰ.膠芽腫glioblastoma
■astrocyte由来の極めて悪性のものである。5年生存率は7%しかない。50才にピークがある。
astrocytoma,malignant astrocytoma,glioblastomaと次第に悪性化するものと、最初からglioblastomaとして発生するものがある。
好発部位は前頭葉、側頭葉、頭頂葉で、後頭葉は稀である。基底核、視床部も稀だが、他部位からの浸潤はある。
発育が急速、浸潤性でしかも破壊性なので、腫瘍周囲の浮腫も強い。
脳梁を介して対側の大脳半球に浸潤するbutterfly typeも見られる。
脳室壁に進展すると播種することもあるが、術前の転移は稀である。
初発症状は頭痛が最も多い。眼底所見では、うっ血乳頭は軽いが、視力障害は強い。
■膠芽腫では単純CTで境界不鮮明なぼんやりとした低吸収域像の中にはっきりとしたhigh,はっきりとしたlowが混在する。
増強CTでは、不均一に増強され、周囲に多房性の壊死巣を取り囲む腫瘍実質がgarland-like ringenhancement(花輪状)を呈する。

Ⅱ.星状細胞腫astrocytoma
1)大脳星状細胞腫cerebral astrocytoma
■神経膠腫の中でも比較的、良性腫瘍だが、浸潤性増殖する。大脳半球に好発する。
中年に多いが膠芽腫よりも若く、30才にピークが見られる。
発育が緩徐で、頭蓋内圧亢進症状の前に、巣症状が出やすい。
■CT、MRIは原則通りだが、脳血管撮影は、腫瘍に新生血管が少ないので無血管野を示す。
2)小脳星状細胞腫cerebellar astrocytoma
神経膠腫の中で最も良性である。小児に多くみられ、一側の小脳半球に好発する。
大きな嚢胞を形成する事が多く、中には髄液とは異なるタンパク質を多く含んだ黄色の液体が含まれる。
嚢胞壁に付着した壁在結節があり、これが腫瘍本体である。多くは、嚢胞壁には腫瘍細胞はなく、増強CTで増強されない。もし増強された場合は嚢胞壁に腫瘍があると考えられる。
■単純CTでは嚢胞はlowで、増強CTで壁在結節が均一に増強される。壁在結節を全摘すれば治癒する。
3)脳幹膠腫brainstem glioma
橋に多く見られ、小児に好発する。組織型はastrocytomaが最も多いが、一部はglioblastomaも見られる。
組織学的に良性であるが、発生部位が生命中枢なので、手術療法は行われず、放射線治療を行うが、1年以内に死亡する。つまり臨床的には悪性である。嚢胞を形成している場合は嚢胞シャント術を行うこともある。
4)視神経膠腫optic glioma
小児に多いが成人にも見られる。NF1に付随して発生することがある。
頭蓋単純写真で視神経管が4.6mm以上、あるいは左右差が2mm以上なら拡大している。
腫瘍が頭蓋内で大きくなると、トルコ鞍底部が平坦化してくる。これは頭蓋咽頭腫でも見られる。
Ⅲ.乏突起膠細胞腫oligodendroglioma
■大脳皮質に好発し、40才にピークがある。比較的良性だが、腫瘍内出血をきたし、突然に発症することもある。また、両側性、深部に発育する傾向があるので、臨床的には良性とは言いきれない。
大脳皮質の中でも、約半数は前頭葉に好発してんかん発作をきたす事が多い。
■検査
単純CTで、境界が鮮明な低吸収域を示すが、中には大きな結節性の石灰化像による高吸収域が見られる事がある。増強CTでは増強されない。
Ⅳ上衣腫ependymoma
■脳室壁を構成する上衣細胞ependymal cellから発生する。小児に多いが、成人にも見られる。
発生部位は小児では第4脳室が多く、成人では側脳室、第3脳室、中脳水道、脊髄が多い。
第4脳室に発生した場合、中脳水道や上部頚椎管の髄液腔に沿って広がるが、付着部は第4脳室にある。
一方で、側脳室に発生した場合は大脳皮質へ進展する。ただし、浸潤性ではなく被膜を伴っている。上部頚椎管に進展した場合は、項部硬直、肩こり、頚部運動制限等の症状をきたす。
■検査
単純CTで等吸収域isoを呈する。約半数に石灰化による小さい円形の高吸収域を認める。
増強CTでは、均一または不均一に増強される。
Ⅴ.髄芽腫medulloblastoma
■小児に多く見られ、小脳虫部に好発するので正中部腫瘍と言われる。第4脳室、両側小脳半球に急速に浸潤していき、症状の進行が極めて速い。
■単純CTで小脳虫部に境界が鮮明な高吸収域が見られる。増強CTでは均一に増強される。

髄膜腫・下垂体腺腫
Ⅰ.髄膜腫meningioma
■40才台にピークがあり、女性に多い(1:1.7)、良性腫瘍である。以下、好発部位順に述べる。
・傍矢状部髄膜腫parasagittal meningioma
70%が中央3分の1にでき、下肢の痙性麻痺、またはJackson型痙攣をきたす。前3分の1にできると巣症状きたすことなく、相当大きくなって、頭蓋内圧亢進症状をきたす場合が多いが、記憶・知能障害、性格変化で発症する事もある。
・大脳鎌髄膜腫falx meningioma
前、中央3分の1が多く、下肢の痙性麻痺の程度が強く、排尿障害もきたす。しばしば反対側にも進展する。
・円蓋部髄膜腫convexity meningioma
大脳半球円蓋部に発生する。前頭葉に好発し、てんかん発作、巣症状をきたす。
・蝶形骨縁髄膜腫sphenoid-ridge meningioma
外3分の1では局所症状をきたさないが、内3分の1に生じると脳神経のⅡ、Ⅲ、Ⅳ、Ⅴの圧迫による症状をきたす。
・嗅溝髄膜腫olfactory groove meningioma
頭蓋底篩板部に発生する。頭痛、嗅覚消失、Foster-Kennedy症候群、痴呆・多幸症・性格変化などの精神症状をきたす。Foster-Kennedy症候群は、腫瘍の圧迫よって1次的に視神経萎縮、嗅覚消失をきたし、次に、腫瘍や周囲の浮腫による頭蓋内圧亢進で反対側の眼底にうっ血乳頭をきたすというものである。有名だが稀である。
後ろ3分の1に生じると鞍上部髄膜腫や下垂体腺腫と同じ機序で視障害をきたす。
・側脳室髄膜腫lateral ventricular meningioma
脳室脈絡叢に随伴する髄膜組織から発生する。栄養血管は前/後脈絡叢動脈である。側脳室三角部、側脳角に好発する。
・小脳橋角部髄膜腫cerebellopontine angle meningioma
頭痛・めまい・眼振・失調や脳神経障害をきたす。この部位の病変による眼振をBruns眼振(一側注視で振幅大、頻度小、他側注視で振幅小、頻度大の眼振)という。
■検査
単純CT:髄膜腫は血管に富み、境界の鮮明な、やや高吸収域を示す。良性腫瘍を反映して周囲の浮腫は少ない。
造影CT:均一に増強される。中心部に壊死巣が低吸収域として認められることもある。
MRI:T1で低信号、T2で高信号を示す。Gd-T1で付着部硬膜が増強されるdural tail signが見られるが、腫瘍が硬膜へ浸潤していることは少ない。
脳血管撮影:髄膜腫は外頚動脈の枝である中硬膜動脈由来のfeederに栄養されているので、選択的外頚動脈撮影によってfeederの1点から小さい血管が腫瘍に放散しているsun burst appearance像が見られる。
■治療
できる限り全摘を目指すが、頭蓋底など難しい部位にあるときは部分摘除にとどめ、術後に放射線療法を行う。
また全摘できた場合でも、組織学的検索で悪性成分が認められたときも同様に放射線治療を行う。
手術前に血管内手術でfeederを塞栓してから手術を行うと、出血も少なく、摘出しやすい。
■再発率
髄膜腫の再発率は、どの程度、徹底的に手術したか、すなわちSimpsonのgradingによって決まってくる。
GradeⅠ:腫瘍の肉眼的全摘の後、硬膜付着部および異常骨の除去を加える。  再発率9%
GradeⅡ:腫瘍の肉眼的全摘の後、硬膜付着部に電気凝固を加える。再発率19%
GradeⅢ:腫瘍の肉眼的全摘の後、硬膜付着部の電気凝固、骨除去をしない。 再発率29%
GradeⅣ:腫瘍の部分摘出のみ。再発率39%
GradeⅤ:生検の有無に関わらず、単に減圧術のみを行ったもの。
Ⅱ.下垂体腺腫pituitary adenoma
■30、40才台にピークがある。ほとんどは良性だが、稀に悪性型がある。
■症状
他の脳腫瘍と同様に徐々に発症するが、腫瘍内出血をきたす事が多く、あたかも脳卒中のように急激に発症する(下垂体卒中)。
症状は腺腫による圧迫による症状の他、機能性下垂体腺腫の場合は腫瘍が産生するホルモンによる症状がある。
<圧迫による症状>
下垂体前葉の圧迫により、ホルモンの産生・分泌を阻害する。GH、FSH/LH(ゴナドトロピン)、ACTH、TSHの順に阻害される。
視交叉optic chiasmaが前下方から押し上げられ、視力障害や典型的には両耳側半盲をきたす。
三叉神経第1枝が豊富に分布する鞍隔膜が圧迫され、眼の奥から眼底上部にかけての頭痛をきたす。
視床下部や下垂体茎の圧迫によって、視床下部から分泌されるPIF(prolactin inhibitory factor:ドパミン)が遮断され、高プロラクチン症状をきたす。
<ホルモン産生による症状>
一番多いのはプロラクチン産生腫瘍で、全体の30%である。女性では無月経、乳汁分泌過多をきたし、男性では性欲低下、勃起不能、乳汁分泌などで、異常と気づきにくく、視障害をきたしてはじめて来院する場合、腫瘍はかなり大きくなっていることが多い。
次がGH産生腫瘍で、長骨骨端が閉じる前なら巨人症を、閉じた後なら末端肥大症をきたす。
他に高血圧、全身倦怠感、関節痛、糖尿、発汗過多などが見られる。
ACTH産生腫瘍はクッシング病と言われ、クッシング症候群の一つである。
■検査
頭蓋単純写真:
正常トルコ鞍は最大の横幅が17mm、鞍結節と後床突起を結ぶ線から鞍底部までの高さが最大13mmである。
腺腫の進展で、トルコ鞍が拡大するとballooning像を呈し、鞍底部が破壊され見えなくなるとghost sella像を呈する。腫瘍が左右いずれかに深く進展するとdouble floor像を呈するようになる。
HardyのX線学的分類:
  Grade   ⅠⅡⅢⅣ   
トルコ鞍拡大 -+-+
鞍底部の破壊 --++
単純CT:低吸収域を示す。
増強CT:やや高吸収域に増強される。
MRI:正常下垂体前葉は腺下垂体ともいい、T1、T2で高信号で灰白質と同じ信号を呈する。後葉は神経下垂体ともいい、脂肪組織に富むのでT1で高信号、T2で等信号を呈する。腺腫は他の脳腫瘍と同じくT1で低信号、T2で高信号を呈する。Gd-T1では増強される。
脳血管写真:腫瘍の上部への進展により、ACAのA1-elevation、内頚動脈のsiphonの開大が見られる。
■治療
手術療法はsubfrontal,transsphenoidal(Hardy法)の二つのapproachがある。プロラクチン産生腫瘍の場合、ブロモクリプチン(ドパミン作動薬)を投与すると血中のプロラクチン濃度が低下し、腫瘍自体も縮小するので術前に投与される。腫瘍が小さい場合はブロモクリプチン投与のみで治療することもある。

頭蓋咽頭腫・松果体部腫瘍・聴神経鞘腫・血管芽腫
Ⅰ.頭蓋咽頭腫craniopharyngioma
■胎生期の頭蓋咽頭管(トルコ鞍と咽頭を結ぶ蝶形骨内の管)の遺残であるRathke嚢から発生する良性腫瘍で、ほとんどが石灰化を伴った嚢胞を作る。
小児の鞍上部腫瘍suprasellar tumorといえば頭蓋咽頭腫であり、次は胚芽腫を考える。
■症状
鞍上部に発生して上方に伸展すれば、第3脳室やモンロー孔を閉塞して非交通性水頭症をきたしたり、尿崩症・性早熟・低体温・発作性の意識障害などの視床下部症状をきたす。
下方に伸展すれば、視交叉を後上方から圧迫し下方から始まる、左右非対称の両耳側半盲をきたす。また、下垂体を圧迫すれば非機能性下垂体腺腫と同様の症状をきたす。
■検査
頭蓋単純写真:上からの圧迫でトルコ鞍が平坦化したsaucer-like sellaが見られ、鞍上部には石灰化化が認められる。
単純CT:やや低吸収な嚢胞と、嚢胞壁に沿った石灰化による高吸収域が認められる。
増強CT:嚢胞が不規則に増強され、嚢胞壁の石灰化はさらに高吸収域に増強される。
MRI:脳実質と同じ信号でT1・T2でisoとなる。嚢胞内にモーターオイル様の黄褐色の液体を含むことがあり、コレステロールを多く含むので、T1・T2で高吸収域を示す。
Ⅱ.松果体部腫瘍
■70%が胚細胞由来の胚細胞腫瘍germ cell tumorで精巣・卵巣といった生殖器細胞類似のきわめて多彩な組織像を呈する。胚細胞腫瘍は体の正中線上の生殖器、脳、縦隔、後腹膜に好発する。男児に多い。残りは、松果体細胞腫、松果体細胞芽腫である。
■分類
1)胚芽腫germinoma
胚芽腫のみは松果体部よりも鞍上部に発生することが多く、性差はない。一方、松果体部に発生するのは男児に多い。精巣のseminoma、卵巣のdysgerminomaと同じ組織像を示す。PLAP胎盤性アルカリフォスファターゼを産生する。
浸潤性増殖するが、放射線感受性が強い。悪性の臨床経過をとらないが、脳室内播種、脳室壁に浸潤することがある。
2)奇形腫teratoma
成熟奇形腫とは骨・軟骨・粘液腺・上皮・筋などのみからなる。
未熟奇形腫はこの他に神経外胚葉、内胚葉、中胚葉の要素を含み、悪性である。
3)卵黄嚢腫瘍yolk sac tumor
卵黄嚢の組織構築に類似し、AFP(αフェトプロテイン)を産生する。
4)絨毛癌choriocarcinoma
胎盤の栄養膜細胞由来の腫瘍でHCGを産生する。
5)胎児性癌embryonal carcinoma
胎児成分、胎盤や卵黄嚢などの胎児外成分への分化能を示す、未熟な腫瘍であり、AFP、HCGを産生する。
■症状(松果体部に発生する腫瘤による症状)
中脳水道を圧迫し、非交通性水頭症による頭蓋内圧亢進症状を呈する。
中脳の上丘を圧迫し、Parinaud sign、Argylle-Robertson pupilを示す。
Parinaud signは上下の眼球共同運動が障害され、多くは動眼神経核後方の輻輳中枢も圧迫され、輻輳麻痺も伴う。
Argylle-Robertson pupilは縮瞳、対光反射消失、輻輳反射消失の3徴候をしめし、梅毒でよく見られるが、中脳圧迫でも生じる。
また小脳脚を圧迫し小脳症状を呈することもある。
一方、胚芽腫などのように鞍上部に発生した場合は頭蓋咽頭腫と同じような症状を呈する。
■検査
頭蓋単純写真:正常では、成人の3人に1人に松果体部の石灰化を見るが、小児では稀で、石灰化があれば、松果体部腫瘍を考える。
Ⅲ.聴神経鞘腫acoustic neurinoma
■小脳橋角部腫瘍の90%が第8脳神経(聴神経)に発生するSchwann細胞由来の神経鞘腫(Schwannoma)である。
聴神経のうち前庭神経から発生することが多い。40才にピークがある良性腫瘍である。
■症状
高音域を中心とした聴力障害から始まる。耳鳴りを伴うこともある。前庭神経から発生するわりにはめまいを初発症状とすることはない。これはゆっくりと増殖するため、中枢性代償機能が働くためである。
腫瘍が発育するに従って三叉神経、顔面神経症状が出現し、さらに小脳症状や、中脳水道圧迫による頭蓋内圧亢進症状もきたす。最終的には舌咽神経(Ⅸ)、迷走神経(Ⅹ)、副神経(ⅩⅠ)症状も出現する。
■検査
・各種聴力検査、ABR、前庭機能検査を行う。
・頭蓋単純写真:タウンview、ステンバースviewで撮影し、内耳道の異常を見る。
・CT:単純CTではisoからlowを示す。増強CTで均一に増強される。(MRIは他の脳腫瘍一般と同じ)
■治療
park bench position、坐位で後頭下開頭術により摘出する。
手術により顔面神経を切断した場合は、舌下神経、副神経、横隔膜神経などと吻合術anastomosisを行う。
Ⅳ.血管芽腫hemangioblastoma
■遺伝性のものは20才台に、非遺伝性では30才台にピークがある。小脳半球に好発し、Lindau病とも言う。
網膜にも血管腫や血管芽腫が生じた場合はvon Hippel Lindau病という。しばしば、頭蓋内、全身に血管腫が多発する。一部の症例で多血症をきたすことがある。
70%は嚢胞を形成し、腫瘍自体は嚢胞壁に壁在結節となって付着しているcystic typeで、残りは充実性のsolid typeである。
■検査
・単純CTではどのタイプでも腫瘍部分はisoを示す。嚢胞部分はlowとなる。増強CTで腫瘍部分は増強される。
・MRIでは嚢胞がT1でlow、T2でhighとなり、多くの脳腫瘍と同じである。
・脳血管写真では腫瘍部位にtumor stainが見られ、小さく、多発性でも腫瘍の個数分だけ、造影される。

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